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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)10342号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、抗弁成否の判断

本件手形金中九〇二万円の原因関係不存在、残額九八万円および利息金に対する相殺の各抗弁の前提となる被告の原告に対する本件ビル貸室の過払敷金、同賃料返還請求権の有無につき検討する。

被告が原告から昭和四五年七月二九日大阪市北区高垣町六七番地鉄筋コンクリート造塗屋根地上一〇階地下三階店舗兼事務所のうち、地下一階店舗一九二、三五平方米(58.19坪)および地上四階事務所を借り受けたこと(以下、本件ビル貸室契約と略す)、この貸室契約の敷金が三、五〇〇万円であること、被告が原告に対し、昭和四六年四月二二日到達の書面で右地下一階の実測床面積が一一八、二七平方米であり、これに共用部分を加えても約一四二平方米であることが判明したとの理由を付して不足床面積の割合による賃料月額一〇万円、敷金九〇二万円を減額するよう請求したことについては当事者間に争いがない。本件手形が前記敷金(保証金)支払のため振出されたものであることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

そして、<証拠>を総合すると、被告が原告会社から本件ビル貸室契約を締結する以前、原告会社管理人から北御堂ビル賃貸価格表(乙第二号証)の交付を受けており、同表には賃料および保証金については坪単価の明示がなされていたこと、本件ビル貸室契約の際は、当初地下一階全室を借り受けることにしていたが、この他に四階事務所(一〇坪)およびその後追加した窓二個分(約五坪)を賃借することになり、その際、被告会社代表者の夫林宗恩の説明により地下一階全室の面積が58.19坪(192.357平方米)との説明を受け、これに四階事務所一〇坪(三三平方米)を加えた合計の賃料を四一五、〇〇〇円と定めたが、その後追加賃借した窓二つ分の賃料を加算して賃料は合計四三五、〇〇〇円に変更し、これらを一括した建物の賃貸借契約書(乙第一号証)を取り交したこと、なお、その際右追加賃借した窓二つ分については坪数が明示されず、保証金は当初の地下一階全室分のみの三五、〇〇〇、〇〇〇円の儘で何ら変更されていないこと、本件ビル貸室の共用部分として原告の言う階段は地下一階から三階までの共用に属するもので本件ビル貸室契約に際し、原告においてこれを共用部分に数える旨明示していなかつたが、一般にビル貸室契約では専用部分の実測面積のほか共用部分の坪数が加算されて契約される商慣習があること、これを被告会社代者松岡こと金教奉も事前に了知していたこと、右被告会社代表者金は、本件ビル貸室契約の際地下一階等の現場を詳さに見分して本件ビル貸室契約をなしたが、契約締結後共益費の請求を受けるに及んで不審に思い地下一階全室を土地家屋調査士上野寿雄に実測させた結果118.2738平方米(35.77坪)であることが判明し、保証金、賃料減額請求に及んだこと、本件ビル貸室面積算出基準(乙第五号証)によると、原告会社は、地下一階実質面積146.097平方米(44.19坪)に地下一階から地下三階及び一階一部(階段室)の共用面積(階段、エレベーター、パイプシヤフト、ダツトスベース)を算出しこれを地下一階ないし三階の実質面積に案分した分を加えた面積が貸付面積(いわゆるビル坪)となり地下一階の場合は貸付契約面積(ビル坪)192.357平方米(58.19坪)となる旨説明していることが認められ、これらの各事実を考え併せると、一般的にビルの営業用貸室契約において、その賃料、保証金が面積(坪数)を基準に算出することが明示され、坪数によつてその額が定められた場合には、民法五五九条により賃貸借についても準用される民法五六五条一項の「数量ヲ指示シテ」なした賃貸借契約と認めるべきであるが、それは貸室専用部分の実測面積によるものではなく、これに合理的な範囲の共用部分の面積を加算した貸付契約面積、いわゆるビル坪をもつて賃料、保証金が定められる商慣習があるものと認められるけれども、本件ビル貸室契約の場合には、前認定のとおり本件地下一階全室のみでなく、これに加えて地上四階事務所、窓二個分の賃貸借契約が一括してなされ、窓二個分については面積(坪数)を明示せず、保証金も地下一階全室につき定めた儘になつていて何らの加算がなされていないことなどに照らすと、原、被告間において前記の数量を指示して賃貸借をなす原則によらず、これを参考としながら右地下一階、地上四階、窓二個分を数量を指示しない儘一括して賃料、保証金を定める旨の特約がなされたもので地下一階、地上四階事務所の面積表示は目的物の特定ないし一応の標準すぎないものであることが推認できるのであつて、被告主張の如く本件ビル貸室契約が民法五六五条一項の「数量ヲ指示シテ」なした契約であることが認められないことは明らかであるし、本件全証拠によるもこれを認めるに足る証拠はない。

したがつて、本件地下一階全室の実測面積が貸付契約上の貸付面積と相違することをもつて、保証金、賃料の減額を請求し、その過払額の返還請求をなし得ないことは明らかであるし、また、前認定事実によると賃借物は何ら滅失したものとは認められないから、被告主張の如く民法六一一条一項による借賃減額請求権も被告に生ずるものとはいえない。

よつて、その余の判断をするまでもなく、被告の抗弁はこれを採用することができないものである。 (吉川義春)

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